ちょっと前に、車で走っていた時の事です。
僕は、先頭で停車していて、踏切が上がるのを待っていました。そして、踏切が上がったんで、アクセルを踏んで発車しました。せやけど、踏切りのすぐ向こうの信号が赤やったんで、すぐに、また停車せんとあきませんでした。
踏切の向こうには、すでに何台かの車が信号待ちをしていて、かろうじて、車2台が入れる分ぐらいのスペースしか空いていませんでした。
そのまま直進する僕は、左側の車線を走っていました。右折専用の右側の車線は、車はガラガラやったんですけど、僕の方の車線には、かなりの後方まで、長い車の列ができていました。
僕が、踏切を渡り終えたちょうどその時に、僕の右側から、ものすごい勢いで、フロントガラス以外の全ての窓に、真っ黒なフィルムを貼った、紺色のいかつい旧型のカローラが走って来て、僕の車の前に、強引にボンネットを差し込んで、割り込んできました。その車は、見事に斜めになっていて、右側の車線を、完全に塞いでいました。もし、右折したい車がやって来たとしても、完全に、トウセンボ状態でした。
迷惑甚だしかったんですけど、車から察するところ、運転してるんは、とても、まともな人間とは思われへんかったんで、ちょうど僕は、踏切を渡り終えたとこで、直接、僕には危害が加わってなかったんで、クラクション一つも鳴らさんと、大人しくしてました。
せやけど、しばらくして、後方から、短く小さなクラクションが、かすかに1回聞こえました。
ふと、バックミラーに目をやると、僕の後ろの車が、半分、踏切に車体がひっかかって停車してる事に気が付きました。
後ろの車も、まさか、そないに、急に車が割り込んで来るとは思わんと、十分に踏み切りを越えられると思って、普通に発車してしもたんやと思います。それぐらい、紺のカローラの割り込みは、強引でした。
バックミラーを凝視していると、後ろの車の運転席と助手席に座る男性たちの交わす会話が、まるで、聞こえてくるかのようでした。彼らは、慌てた様子で、何度か後ろを確認して、右側の車線を指差したりしていました。
「おい!半分、車体が踏み切りにかかってるで。電車が来て、遮断機下りてきたらどないするよ!?」「右側の車線に行ったらどないや?」「いや、あかん。紺色の車が車線塞いでるから、どっちみち踏切に引っ掛かるわ・・・・・。」「おい、おい、、、、電車来たら、どないするよ・・・・・!?」
まさに、彼らは、そんな会話を交わしてたはずです。割り込みをかけてる車が、車やったんで、彼らも、大きなクラクションを鳴らす事は、ためらってる様子でした。
僕は、強引に、斜めに頭を突っ込んで来ている紺色の車をかわして、できるだけ前進して、後ろの車が踏切から出れるよう、スペースを確保してあげようと思いました。
車道のすぐ左側には、フェンスが立っとって、完全に左に、はみ出す訳にもいかず、僕は、かなり際まで、紺色の車に接近して、前進しました。そないしても、後ろの車が、踏切から完全に出られるかどうかは分からんかったんですけど、とりあえず、できるだけの事は、してみました。
ほな、後ろから、さっきよりかは、大きな、そして短いクラクションが聞こえました。「ありがとう!踏切から出れたわ!」ちゅう合図です。やれやれ、でした。
自分さえ良ければ、人が、どないなってもええっちゅう考えの、程度の低い人間のおかげで、こっちはええ迷惑でした。みんなが、ちゃんと左車線に並んでんのに、自分は、空いてる右側車線を悠々と走って、あげくの果てには踏切の直後で強引な割り込みをして、後続車が、踏切で立ち往生してしもても知らん顔です。
せやけど、この話は、簡単には、「めでたし、めでたし!」では終わりませんでした。
紺色の車が、僕が車を前進させたんを、「こら!何、割り込みしとんじゃ!誰が、おまえなんか入れるか!アホンダラ!」ちゅう意思表示やと判断したから、さぁ大変!
僕は、紺色の車の左側の後部座席の真っ黒なフィルムを貼った窓が、下に降り始めたのを、いち早く察知しました。今や、相手の後部座席は、僕の運転席の真横に来ていました。
「ひょっとしたら、そないに受け取られる可能性も、なきにしもあらずかも知らん・・・・・!」
と、車を前進させながら思ってた僕は、「これはいかん!」と、相手のパワーウインドウに負けんぐらいのスピードで手回しで窓を開けて、何か言われる前に、先に事情を説明しようと頑張りました。
僕が、窓を開け終えるのと、向こうの窓が開くのとは、ほぼ同時でした。
案の定、窓の向こうにおった人は、頭を見事に剃り上げた、蟹江敬三を、いかつくしたような顔付きの50代のおっちゃんで、一目で堅気やないと分かる人でした。
僕はトラックに乗っていて、座席が高い位置にあったんで、相手の顔は見えへんかったんですけど、運転席に座ってた男の人も、開けた助手席側の窓から、僕に睨みを利かせようと、身を、こっちに乗り出しているのが分かりました。その車には、もう一人、後部座席に人が乗っていました。
僕は、先制攻撃とばかりに、先に口を開きました。
「後ろの車が、踏切に引っ掛かってましたんで・・・・・。ごめんなさいね!」
僕は、後ろを指差しながら、にこやかに言いました。
それを聞いて、運転席に座る男性と、後部座席のもう一人の人が、後ろを振り返って、状況を確認して、何か言うたみたいでした。
スキンへッドのおっちゃんは、後ろは振り返らずに、それを聞いて、いかつい顔には、とても似つかわしくない、にこやかな表情を浮かべながら、言いました。
「あぁ、そうかい。」
強面(こわもて)のおっちゃんは、その一言だけを言い残して、再び、黒いウインドウを上げて、僕の視界から消えていきました。
おっちゃんも、僕を見て、僕が嫌がらせをするような、いきがったタイプの人間やない事が、すぐに分かったんやと思います。
ほんまは、向こうが、「割り込んでごめんな!」ちゅうて謝るべきなんですけど、”触らぬ神に、たたりなし”です。物事を丸く治めるためには、時には、自分が悪くなくても、謝る事も必要やと思います。
それで、ようやく、「めでたし、めでたし!」でした。
それにしても、おっちゃんの笑顔、不気味やったなぁ・・・・・。あないに、笑顔の似合わん人も、珍しいわ・・・・・。