2006.02.28「死のドライブ」その3

おまち堂のコラム

車を運転中に、友人から電話がありました。時刻は10時過ぎでした。僕は、予想よりもはるかに早く、大阪から約2時間で彼の家の近所までやって来る事に成功していました。

友人は、てっきり、僕が来るのは、昼過ぎやと思っていたらしく、その時は、まだ、起きてすぐとの事でした。彼は、僕に、「出発の準備ができるまで、しばらく時間を潰しといてくれ。」と、言いました。

僕は、ローソンの駐車場に寄って、彼からの電話を待つ事にしました。

やはり、道路とは違ごて、ローソンの駐車場は、溶けたシャーベット状の雪で埋め尽くされていました。

電話を待っている間に、車のエンジンを切って、ワイパーを停止していると、フロンドガラスには、見る見るうちに雪が積もってきました。

時間潰しのために、ビデオを片手に、車を降りて周囲を見渡してみると、車が通らない道には、一面に、綺麗な雪が積もっていました。僕は、ここが”雪国”である事を、認めざるを得ませんでした。

せやけど、驚いた事に、友人からの連絡を待つ間に、現地の状況を確認しておこうと、物置の出品者に連絡を取ってみると、「豊岡の方は、そんなに雪が降っているんですか?こっちは、全然、雪なんて降ってないですよ。」と言われてしまいました。

僕は、「へぇ、、、、そんな事もあるんや・・・・・!?ほな、でかい道路を通って行ったら、この車でも、大丈夫かも知らんな。」と思いました。

「上手い事いったら、レンタカー代が浮くかも知らんな・・・・・。」と貧乏人の僕は、ちょっと欲が出てきました。

予想よりも、はるかに早く、最初の電話から30分程してから、友人から電話が掛ってきました。

僕が、ローソンにいる事を告げると、友人は、説明するんは難しいんで、迎えに来てくれると言いました。

約10分後に、彼がローソンに姿を現して、僕達は約10ヶ月ぶりに再会しました。

「えらい、雪国やんけ!」僕は、開口一番、そない言いました。

僕が、「現地は、雪降ってへん、言うてんで。最初は、レンタカー借りようかと思とったけど、もう、この車で行ってまおうか。」と言うと、僕の隣に乗る事になる友人は、少し顔を引きつらせて言いました。

「ここいらでは、しょっちゅう道路から転落して、身動きが取れんようになってる車を見かけるんやで。雪道を、なめたらあかんで!スノー・タイヤ装着しとってもそれやで!現地の人間でも、それやのに、自分(あなた)、雪道走った経験もないんやろ?豊岡市内まで行って、レンタカー借りた方がええわ。タイヤ・チェーンかて、ここらのカー用品店やったらトラック用も売ってるんちゃうか?」

確かに、彼の言う事は正論でした。せやけど、悪い事よりも、ええ事の方を優先的に考えてしまう僕は、「せやけど、レンタカー借りるにしても、チェーン買うにしても金がかかるがな。昨日、見に行ってきたけど、チェーンは1万5千円ぐらいすんねんで。それやったら、運良く、この車で行けたら、その分の金が浮いて、ええモン食えるやん。」と、彼に言いました。

とりあえず、結論は先送りにして、僕らは、彼の家に行く事にしました。

2年前に、大雨が降って、家が水浸しになった後にリフォームしたという彼の”マイ ハウス”は、とても綺麗でした。母屋の隣に立つ、その家は、完全に彼の物やそうで、同じ年齢で、すでに家持ちの彼が羨ましく思えました。

僕は、と言えば、今から取りに行く物置に、「住んだろう!」と考えてる、”家持ち”ならぬ、ただの”病気持ち”でした。そんな僕にとっては、恵まれた環境に暮らす彼は、まさに、”鼻持ち”ならない存在でした。

僕は、難色を示す彼を説き伏せて、ここまで、やってきたノーマル・タイヤのトラックで、現地に向かう決心をしました。

「大丈夫やって!向こうは雪降ってへん、言うてんねんから。」僕は言いました。

「そんな事、有り得んわ。向こうは、ここよりも、さらに北なんやで。ここよりも、降ってるはずやわ。そのおっさん、嘘ついてんで・・・・・。」友人は言いました。

彼の家の前に入る時に通る、細い道に積もった雪にさえも滑ってしまう僕のトラックを見て、彼の不安は、まさに、雪だるま方式に膨れ上がっていたに違いありませんでした。

それでも、結局、僕達は、そのままのトラックで現地に向かいました。「ひょっとして、死ぬかも知らん・・・・・。」と、昨日、タイヤ・チェーンを購入できなかった時から考えていた僕は、この時になって、ようやく、「この程度の雪やったら、何とか生きて帰れそうやな。」と、胸を撫で下ろしていました。

と同時に、「やったがな!チェーン代もレンタカー代も浮いたがな!これで、今日の晩は、奮発してええもん食えるで!」と思っていました。

久しぶりに、友人と会う喜びと、生きて帰れる喜びとで、僕のテンションは、嫌がおうにも高ぶっていました。

僕らは、現地に向かう途中の喫茶店で昼食を取ってから、14時頃に現地に到着しました。

驚いた事に、本当に、現地は、ほとんど雪が降っていませんでした。豊岡に比べると、嘘のように、周囲にも、雪は積もっていませんでした。ほんのちょっと離れただけで、こないに、ちゃう(違う)もんかと驚きました。

「よっしゃ。これで、命は保証されたな!」

僕は、雪の積もっていない道路を走りながら、生きて帰れる事を確信しました。

~続く~

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