2006.03.22「究極のいちゃもん」その5

おまち堂のコラム

警察官2人を前に、やりとりしている僕達の前に、どこからともなく、40代のビジネスマン風の小柄な中年男性が現れました。

彼は、突然に口を開き、僕の相手の若い男に対して言いました。

「俺、自分(あなた)のやってること、最初から見てるけどな。自分(あなた)見てると、ほんまに、むかつくわ!おまえ、もう、やめとけよ!あんたは、”ぶつかった、ぶつかった”言うてるけど、今かて、子供、笑いながら走り回ってるやんけ!ほんま、もう、くだらん事、やめたらどないやねん!?ほんま、むかつくわっ!」

それを聞いた若い男は、「何やねん!おまえ、関係ないやろ!むかつくんやったら、しばいたらええやろ!早よ、しばかんかい!」と、ビジネスマン風の男性に言いました。

ビジネスマン風の男性は、それだけ言うて、不機嫌そうな表情を露にしながら、紙コップ入りの飲料を片手に、ポケットに手を入れたまま、その場を立ち去ろうとしました。

僕は、「すんませんねぇ。嫌な思いさせてしもて・・・・・。」と、去り際の彼に、声を掛けました。

僕が反対の立場やったら、絶対に、そんな事は、よう言いません。触らぬ神に祟りなしです。よっぽどの事がない限りは、見て見ぬ振りをするに違いないと思います。

勇気を持って、一言いうてくれはった彼に対して、僕は、ちょっとだけ感動していました。

「なんやねん、あいつ。関係ないくせに!」パンダ・アイシャドウの女が言いました。

「何が、”むかつく”やねん!むかつくんやったら、しばいたら、ええんじゃ!」男が言いました。

僕の記憶に残っている、この日の女のセリフは、二つだけなんですけど、これが、そのうちの一つです。

結局、警察官は、全く無力のままに去って行きました。明らかにチンピラに因縁をつけられている善良な市民を残して、何もせんと帰ってしまうやなんて、何と、警察官というのは薄情な人種なんでしょう・・・・・。

彼らがした事と言えば、「警察なんか怖くない。」ちゅう意識を若い男に植え付けて、彼を余計に図に乗らせてしもただけです。若い男は、帰ろうとする警察官達に、「話がつかんかったら、また来てくださいね!」と、調子に乗って声を掛けるような始末でした。

警察官がいてる時に、男が店員に防犯カメラに映った僕らの衝突の瞬間の映像を見せるように要求しとったんですけど、店員は「個人情報保護の観点から、個人の方にはお見せできません。」と断ってはりました。

せやけど、警察官が来てる事を確認した店員は、しばらくしてから、「見れる準備ができましたけど・・・・・。」と、僕らに申し出てくれました。

せやけど、それさえも、警察官は見ようとはしませんでした。それさえ見たら、彼が不当な言いがかりをつけてきている事は明白で、彼を沈黙させるには持って来いの証拠であったにも拘わらず、警察官はそれを見ようともしませんでした。

それを見て、一言、「君、これじゃ、裁判しても、君が負けるよ。もうやめにしといたらどないですか?」ちゅうて言うてくれてはったら、男も諦めがついたに違いないんですけど、警察官の態度は、明らかに、「ややこしい事には関わりたくない。”触らぬ神に祟りなし”や。」と言わんばかりの、周囲の野次馬と何ら変わらん有様でした。そこには、正義感のカケラも感じられませんでした。彼らは、ビジネスライクな応対に終始していました。

そんな彼らと比較したら、一言だけ言うて去って行きはった40代の男性の方が、まだ正義感は強かったに違いないと思います。警察官から正義感を取ってしもたら、後に残るのは、定年まで問題を起こさずに無難に勤めあげて、人生の安泰を手に入れようとする、”事なかれ主義”の見下げた公務員根性だけやと思います。

洗車の終わった、女性が運転する車の後ろに付いて、僕は、箕面市民病院まで来ました。

ちなみに、彼らの乗る車は、白のスズキのワゴンRで、何故か、ナンバーは、”大分”になっていました。

男が住んでいるのは、僕と同じ大阪府豊中市なんで、普通に考えたら、行くのは豊中市民病院なんですけど、どういう訳か、僕らは、箕面市民病院にやって来ました。

僕は、車を運転しながら、「不当な治療費と慰謝料を手に入れるために、常習犯の彼らにとったら、こっちの病院の方が、都合がええんかも知らんな。あるいは、豊中市民病院は、もうすでに、何回も行き過ぎとって、行きにくいんかも知らんわ。」などと考えていました。

女性は、車を病院の玄関前に止めました。そして、男が助手席から降りてくると、障害者用のマークが大きく地面に描かれている、玄関に一番近い駐車場所の前に置かれている赤いコーンと黄色と黒のコーンを繋ぐバーを手際良く移動させて、僕に、そこへ車を止めるように、身振りで合図を送りました。

僕は、そんな恥知らずな行為はしたくなかったんですけど、とんだトラブルに見舞われてしもて、少し気の滅入っていた僕は、今回ばかりは、正規の来客用の駐車場に車を止める事をせずに、男の指示に従いました。初めて来る病院で、勝手が分からんかったっちゅう事もありました。来客用の駐車場に停めたら、ひょっとしたら駐車場代を取られかねへんと思って、診察にどれくらい時間がかかるかも分からんかったんで、ついついいけない誘惑に負けてしまいました。ごめんなさい・・・・・。

病院に着いて、パンダの女と子供が診察を受けてる間に、男が、僕に話を持ちかけてきました。警察が来た事によって、一つだけ男には変化があって、彼は、僕に対して敬語を使うようになっていました。きっと男は、えらそうな脅迫口調でしゃべっても、僕がひるまん事を悟って、それならばと、言葉巧みに、僕を言いくるめようとしとったんやと思います。

「今まで、僕は、若い頃にバイクを運転しとった時に、何回も、こういった事故を経験してるんですよ。全て、被害者の方なんですけどね・・・・・。それで、こういう時の解決策としては、慰謝料として、お金をもらって、それで示談をするという方法があるんですよ。相手からお金をもらって、後は、その中から、自分で通院代を支払って、もし後遺症が出たとしても、一切、文句は言いません、という形で和解するんですよ。もちろん、示談書は書きますよ。示談書には、日付と住所、名前を書いて、ちゃんと判子もつきます。そうしたら、それは、どこに出しても通用する、ちゃんとした書類になるんですよ。一番、簡単な方法は、それですね。」男は、慣れた口調で言いました。

「裁判をしたとしても、着手料には、30万円も掛りますよ。それに、もし裁判に負けた場合は、慰謝料の上に、相手の裁判費用まで負担しないとダメなんですよ。それに、裁判をしても、あなたには、勝ち目は、ありませんよ。被害者は、こっちなんですから。加害者が裁判を起こすなんて聞いた事ありませんわ。裁判は、被害者が起こすもんですよ。あなたは怪我をしてなくて、相手に怪我をさせておいて、何て言って裁判を起こすつもりですか?だから、裁判なんかしても、無駄な金を使うだけですわ。それやったら、さっき言った方法で示談をした方が、結局は、安くつきますよ。」男は言いました。

ここまで来たら、相手は、ちょっとだけ法律をかじった事のある、間違いなく、常習犯です。僕は、そう確信しました。

最初に、威圧的な態度に出て、相手を怖気づかせおいて、それであかんかったら、今度は、法律を振り回して、相手を言いくるめる。

男の話の運び方は、明らかに、ある種のマニュアル通りのように思われました。

 

~続く~

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